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サンデー毛利さんのおはなし
「愛とは何であろうな、」
「ねえ三成、なんだと思う?」
「私に聞くな。出立する」
「大谷さんの所だね、いってらっしゃいー」
「ザビー様…」
日曜の晴れの日、毛利元就は愛に目覚める。
自らをサンデー毛利と名乗り、普段は欠片ほども口にしない「愛」について、そして彼が崇拝する「ザビー様」について説き始めるのが特徴だ。
トーンは普段とは変わらないが、口にする言葉があまりにもかけ離れたものとなるので、彼はどんなに仕事が山積みであろうとも日曜日は必ず休んでいる。
朝6時半。サンデーに無理やり起こされた私は先ほどからあくびを連発していた。
「ちょっと早いけど朝ごはん食べる?」
「ふむ、小麦と酵母を合わせ発酵させたものに日輪焼きを乗せるがよかろう」
「……パンと目玉焼きの事ね。たしか賞味期限もうすぐだったベーコンも付け…ふあ…」
サンデー毛利は普段の言葉遣いに加え、やたらと回りくどい言い方をする。
面倒臭いのでサンデーになった彼に対しては完全にフランクに接していた。
「我も手伝おう」
そう言って力強く頷いた彼は食パンと卵とベーコンを出して並べ、私の隣に立った。
回らない頭で手順を思い出していると、どうした早く手を動かせ、という視線が左側から無遠慮に注がれる。
もうすっかり慣れたことだが、彼の言う『手伝い』とはすなわち材料を出して私の手順を隣で見守ることである。
「まず食パンをトースターで焼きます」
「うむ」
「その間にフライパンを熱してベーコンを並べます」
「ふむ」
「その上に卵を割って…あっ、これ黄身が双子だ!ラッキー!」
「おお…!日輪が二つ…!」
「ではこれはサンデーにあげます」
「…卵が勿体無い、一つは貴様にくれてやろう」
「いいの?ありがとう、嬉しい」
サンデーは普段の元就様よりもほんのちょっぴり寛大だ。
昨日の残り物のポテトサラダとプチトマトも出して丁寧に盛り付け、朝食を完成させる。
ちなみに普段の元就様はご飯派、サンデーはパン派である。
「サンデーの今日の予定は?」
「大友とザビー様について語り今後の布教策を練る」
「ああ…宗麟くんが来るんだ…」
「貴様宛の恋文も既にしたためてあるそうだ」
「あれは恋文じゃないよ、『ザビー教に入るかザビー教サンデー支部の幹部になりなさい』っていうザビーorザビーの恐喝文だよ!今日は絶対に受け取り拒否しますからね」
両腕でバツを作りNO!の意思を見せるも、サンデーは柔らかく目を細めて「もう我の配下であろう?」とのたまった。
一瞬見とれてしまった私はさらにNO!を前面に押し出し首をブンブンと横に振る。
駄目だ駄目だこの美しい男は駄目だ、ただ表情を崩すだけでこんなにも私の心を揺らす。
「宗麟くんに興味がありませんって伝えておいてよ」
「何故ぞ。愛があれば年の差など関係がなかろう」
「そっちの話じゃないです勧誘の話です」
「年下には興味は無い…か。では我の配下ならば問題は無「うちは仏教ですので!!!」
食い気味に言うと彼はほんの少しだけ唇を尖らせ、「貴様に愛は無いのか」と責める様に呟いた。今度サンデーとの会話を録音して元就様に聞かせようと思う。
はあ、とため息を付き、壁の時計を見る。今日は午後から仕事があるので、そろそろ支度をしなければならない。
「日曜日はお客様が多いんだよなあ…」
「貴様も大概な仕事人間よ」
「二人に比べたらまだましって思えちゃうけどね」
「同列に語るでないわ」
「専業主婦もいいけどつまんなさそうだし」
「愛する相手もおらぬ者の戯言ほどつまらぬものは無いな」
「え?お互い様だと思うけど?」
「…」
軽口を叩き合いながらいつもの様に支度をし、宗麟くん用に常備してあるお茶菓子を出して玄関先へ向かう。
サンデーは静かに見送りに来た。
「じゃあ、宗麟くんによろしく」
「うむ。滞りなく我の配下にしたと伝「うちは仏教ですので全く興味が無いとお伝えくださいね、行ってきます」
仕事でよくする笑顔で丁重にお断りしてドアを開けた。
すると背後から「それでも我は、」と小さな言葉が届く。
「……それでも我は、貴様からの愛ならばいつ何時でも拒絶はせぬ。...貴様もそれを理解しているであろう?」
心がどきりと音を立てた。
何も聞こえなかった振りをした。
「…だからこそ今この場でザビー教に入信すればもれなく我とザビー様の「うちは仏教ですので!!!!!!」
慌ててドアを閉めて駆け出す。
だからサンデーは面倒なのだ、つい気を抜くとその気が無くても心を揺さぶってくる。
きっとあれは計算の限りを尽くしているのだろう、いつもの策略なのだろう、そうに違いないと何度も自分に言い聞かせた。
駅について息を整え、帰宅時間をなるべく遅らせようとすぐに帰りの電車時刻を調べた。
おそらく三成も今日は帰ってこないだろう。彼はサンデー化した元就様には決して近付かないし関わろうともしない。
次の日になればすべて元通りになるのでそれまでの辛抱だ。
ドアを閉める直前にサンデーが笑っていたように見えたことも、これから始まる日曜日の忙しさにかき消されてしまえばいいと心の中で強く思った。